伊藤隆行『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』(集英社新書)

モヤモヤさまぁ〜ず2」は、
正月特番だった第1回の
北新宿の回を偶然見て、
それからほぼ毎週見るようになった。


もともとテレビ東京が好きで
見てたけれど、
バラエティのエンドロールで
この「伊藤隆行」という名前を見ることが多かった。


以前『テレビ番外地』という新書も読んだが、この本もテレビ局は最下位だとかマイナスだというところから始まっている。もともとぼくは「WBS」を始めとした経済番組が見たくてよくテレビ東京を見ているのだが、まさか伊藤Pが経済記者を志望して入社したとは驚きだった。


「モヤさま」などでときどき映り込む姿は、穏やかで温厚そうだけれど、文章も内容もイメージ通りの謙虚さ。自分は凡人だとか、自分はクリエイターではないとか。プロデューサーは人のために死ねることの例として高校時代の野球部での犠牲バントのエピソードが印象深かった。


プロデューサーの仕事は、最初に企画を立てたらほとんど終わりという潔さ。あとはスタッフに委ねる。面白い映像を撮って編集するのはディレクターの仕事として割り切る。自分は現場が速やかに流れるように雰囲気作りに徹する。そして何か起きれば責任を取るという男らしさ。


圧巻はその発想の豊かさ。まずタイトルを決め、そこからイメージを膨らませていく。予算がない、事務所とのパイプもないテレ東でいかに面白がれるかを考える。ときには厳しい上司と酒を飲み、叱られ、頭を下げ、それでも懲りずに企画書を書く。このテレ東文化は素晴らしい。


個人的な話になるけれど、広告会社に所属していたとき、とにかくぼくは「デザイナー」という肩書きは避けたかった。とにかく「オペレーター」でいたかった。つまり伊藤Pが語るところの、プロデューサーではなくディレクター。もしくはAD。とにかく他人の下でいたかった。


具体例として、いろいろな面白い番組の誕生秘話や終了裏話が書かれているが、これは中間管理職の人心掌握術の本でもあるし、逆に部下がどう上司に接すればいいのかのヒントの詰まったビジネス書である。だからタイトルの『仕事術』も間違っていないし新書ならではでもある。


長くなったので最後に。伊藤Pの出演者との信頼関係が素晴らしい。なぜ『怒りオヤジ』が『怒りオヤジ3』になり、『モヤモヤさまぁ〜ず2』から始まったのか、とか。大江、大橋両アナウンサーをなぜ起用したのか。そして彼女たちからのコメント。どれを読んでもグッとくる。

伊藤Pのモヤモヤ仕事術 (集英社新書)

伊藤Pのモヤモヤ仕事術 (集英社新書)