久しぶりに突然「落ちた」。

珍しく昼食を摂ったせいか!?
しかもアルコール抜きだったせいか(爆)!?

いずれにしても突然襲いかかってきた魔の手。
このところ落ち着いていたので、すっかり安心していたのだが。


(前回からの続き)
蕎麦屋を出て本屋で雑誌を買って会社に戻る。
木曜日に行うべき作業(の前倒し)は終わったので、ここからはいつもの水曜日モードだ。
ここ数ヶ月、今年に入ったあたりからだろうか、いささか「わるい流れ」になっていて、それは業務のピーク(時間)の山がうしろに、つまり遅くなっているのだ。

たしかに昨年あたりまで水曜日は徹夜/午前様があたりまえのようになっていて、月に1度くらいは27時、28時なんてこともあった。いちばんひどいときは明け方6時や7時に帰って着替えて出直すなんてことが何週か続いたことも。
幸いにしてぼくは会社まで歩いても20分程度のところに住んでいるので、かろうじてお風呂に入って身支度を整えるくらいの余裕があった。だが疲れ切った躰と眠い頭で運転して帰るのが億劫になってしまうひともいて、毎週のように会社に泊まり込んでいた。<出社するとどこからともなくいびきが聞こえてきて驚いたりもした(笑)
競合相手の社屋にはシャワーやら仮眠室が用意されてるらしいが、どちらがよいのだろうか。設備投資したということは、使わなければ無駄なわけで、それはつまり泊まり込みで働けと暗に示していると云えなくもない。
まあ男性ならざっとシャワーでも浴びて雑魚寝でも構わないが、女性にとっては耐え難いのではないだろうか。じつは、その会社がイヤになって我が社に移ってきた女性がいるのだが、当時彼女は会社のアパートに社員寮代わりに住まされていたそうだ。いまは片道数十キロを通勤しているが、それこそ陽が昇り始めてしまえば家に帰ることさえままならないわけで、常にトランクには寝間着代わりのジャージと着替えが積んであるとのことだった。どうするかといえば幸か不幸か我が社の近くに、いわゆるスーパー銭湯があるのでそこでひと風呂浴びてわずかでも仮眠をしてまた数時間後には働いていた。

そんな最悪な人生はようやく回避し始めたかに思っていたところに、前述の通り今度は「わるい流れ」にシフトするようになった。
今週は出稿数もすくないし、さほど遅くはならないだろうと誰もが甘い期待を抱いていたことは否めない。だが、じっさいには作業のピークの山がうしろにずれているだけでなく、今週に限ってはなぜか全体的な進行がゆったりしている気がする。クライアントである上のフロアの系列会社の仕事ぶりまでぼくたちにはわからない。けれど少々「のんびりしすぎてるんじゃないの?」感はあった。
遅い昼休みを終えて会社に戻り、水曜日モードで業務を始めてわりとすぐだったと思う。誰かの声で起こされた。そう、いつのまにかぼくは眠ってしまっていたのだ。
ふたたびモニタに向かうが、また眠ってしまう。「疲れているなら下*1で休んできたら」とマネージャーも気を遣ってくれた。
何度も眠りに落ち、誰かに起こされ、その度に「いや、大丈夫です」と繰り返すしかなかった。

かつてまだ上のフロアに在籍していた頃、何度となくこんなことがあった。はじめは連日遅くまで残業しているせいかと誰もが思っていた。だがそれは規則的ではなく--つまり前夜が遅いから起こるわけでもなく、わりとヒマなときにも訪れたりした--、単に惰眠を貪っている=怠けているわけではないことはわかってもらえていた。
一度だけ、ひとりだけ、そのことを理解しているひとがいた。まだ同じフロアにいた系列会社の女性で、何かの折りに「体調どうですか?」といった感じで話し掛けられて、「ええ、まあ」などと空返事を返していた。「そういうのナルコなんとかって云うんでしたっけ?」と彼女は訊いてきた。彼女はこの病気のことを知っていた。それから、すこしだけ話をした。彼女の友人にもナルコレプシーに悩まされているひとがいるらしかった。その症状やたまに現れる副症状は、まさにナルコそのものだった。
そのころぼくは、ほとんど周囲の人間と口をきかず、まして隣の会社の人間とはまず適当な世間話を交わす程度だった。同じ会社のなかにも、部署内にも残念ながら病気のことを理解しているひとはいなかったし、そもそもぼく自身が話すことさえなかった。とくに隣の会社とは、どちらかと云えば敵対的な関係だったし、その火付け役というか圧倒的な正論を吐いて事を荒げるような役割(?)にいたのが、ぼくだった。
そのなかにあって、この女性は数少ないまだまともに会話ができる方だったので、敵対抗争最前面にいたぼくでさえ、さして悪印象は抱いていなかった。それは単に仕事ができた--時間の使い方や人間の動かし方が優れていた--ということもあったが、まさかこんな個人的でかつディープなことで話ができるひとだとは思っていなかった。

それがいつ頃の話だったかは、思い出せない。もしかしたら去年のいまごろだったかも知れない。その後忘れた頃に何度となくぼくは突然に眠りに落ち、周囲に多大なる迷惑を掛けてきた。
なんとかリタリンで生き延び、会社ではエスタロンモカなどを囓りながら乗り切ってきた。そしてこの半年ばかりは症状も現れず、落ち着いて業務に励んでいた。むしろ逆にドラールロヒプノールの大量摂取で目が醒めずに、無断欠勤してしまったり、午後まで寝過ごしてしまうことなどが多くなった。
そんな矢先だったから、まわりは驚いたし--とくに症状が落ち着くようになってから入社してきた新人も多くいたし--、なによりぼく自身がまさかと信じられなかった。
さいきんはリタリンとの付き合い方も、うまくバランスが取れるようになってきていたし、寝るときは徹底的に寝たし、休むときは休むようにしていたから。

よくはわからないが、そんなほとんど仕事もせずに眠っては起こされるといった繰り返しが2、3時間は続いたのだろうか。さすがに自分自身でも、このままではとても業務に支障をきたすと実感したので、まさにこれから水曜日ペースの多忙な時間帯に突入するところではあったが、上司とマネージャーに詫びを入れ帰宅させてもらうことにした。

この数ヶ月あまりにも調子良く過ごせていたので、さほど心配することはないのかも知れないと油断していたが、やはり間違いなくナルコレプシーはぼくの奥深くで眠っていたようだった。

原付で帰る途中、ほんの数十分の道のりで何度か睡魔に襲われた。なんとか我に返り運転を続けたが、自宅まで残り数分というところで垣根に突っ込んでしまった。幸い通行量のほとんどない行き止まりの裏道だったので、大事には至らなかったが転倒した際にミラーは曲がり、肘を打った。

それでもなんとか家路には辿り着き、倒れ込むように眠りに落ちた。

*1:現在使われていないフロア。大量のマッキントッシュと休憩するためのソファなどが置かれている