capsule「グライダー」は、×××××××××××××××××××××××××だ!
このところPerfumeに始まり、中田ヤスタカの才能に圧倒され、ついにはcapsuleのCDまで買い集め始めたことは、ここで書いてきたが、なかでも白眉は「グライダー」である。
てっきりシングル・カットされているのかと思ったら、アルバム『L.D.K. Lounge Designers Killer』収録のみだった。でもPVはあるんだよね。「人工芝ファッション」とか賛否両論の(爆笑)。
はじめは、ひねくれポップのcapsuleのストレイトなラヴソングだと思って聴いていた。
ヘッドフォンで何度も聴いているうち、知らず知らずに涙が零れてきた。
クスリでアタマを飛ばして歌っていたら、いつのまにか涙が溢れていた。
せつない唄だとは思っていた。哀しい唄だなとは気付いていた。
歌詞をよく聴いてみた。CDを買って歌詞カードを読んでみた。
いきなりキャッチーなメロディから始まる。
問題はここだ。
あの日から 僕の心にも大切な変わらないものが
気分はハイ 言葉はきっとグライダー
大体いっつも飛んでるみたいだ 結局僕らは生きてるみたいだ**1
「気分はハイ」くらいならわかる。よくある歌詞だ。
「言葉はきっとグライダー」>ちょっと隠喩を帯びてくる。
「大体いっつも飛んでるみたいだ」>ハイになった気分は「飛んで」しまう。しかも「大体いっつも」である。薬物依存(常習)者にとっては身近な風景だ。
だが「僕らは生きてるみたい」なのだ。ほんとうに「生きてる」かどうかは、わからない。だって「飛んでる」んだから。
でも重要なのはこのフレーズのはじめに「結局」と付いているところだ。
もう「僕ら」は生きてるかどうかさえわからないくらい、「ハイ」で「飛んでいる」。もちろん「生きてる」かどうかなんて気にしていない。だけど、「結局僕らは生きてる」ようなのだ。
しかもそこに自覚症状はない。
生きてる「みたい」なのだ。
それどころか、飛んでることさえも、飛んでる「みたい」なのだ。
これは笑ってへらへらトリップ・ロールを楽しんでいるわけではなさそうだ。
知らず知らずのうちにクスリが手放せなくなり、自己と他者、現実と虚構の境界が見えなくなってしまった風景を描写しているのだ。
この部分があまりにも強烈すぎて熱く語ってしまったが、この唄にはまだ深い箇所がある。
ああ 遠くの場所から キミのこと祈っていられない
こっちへおいで ふたりでいたいよ**2
主人公(僕)は、「遠くの場所」にいる。そこからはキミのことを祈ることもできない。
ここで歌われる「遠く」は、物理的・距離的なものではないことがわかる。おそらく「時空」や「次元」が離れているのだろう。何しろ祈りすら届かないのだから。
そしてハッキリとわかるところは、「こっちへおいで」と云っていることだ。つまり僕とキミは、べつの「世界」にいる。
この「世界」を詳しく歌っている場所が次だ。
メイドインヘブンの服を着て空飛ぶ夢をみたいのに 太陽も温かいのに
僕の羽はもう折れてるんだ なんでもかなう気がしてた**3
メイドインヘブンは、わかりやすいので省くとして、僕は「空飛ぶ夢をみたい」のだ。
これは空を飛べない(だから夢をみたい)ことを示している。そう、「僕の羽はもう折れてる」から飛ぶことはできないのだ。
だからクスリで飛ぶ夢をみる、いや結論を急がないように。
飽くまで「空飛ぶ夢をみたいのに」なのだ。そう、夢みることすら僕にはできないのだ。
仮にここで「メイドインヘブン(の服)」を、多幸感の得られるドラッグと仮定しよう。
そのカプセル(!)を手に入れて、僕は飛べると思っていた。クスリをキメているときに、感じる「なんでもかなう気がしてた」のだ。
しかし、それは幻想の(幻覚の)世界でしかないことを、僕は知ってしまう。
限られた世界の中の話 この壁の外に出たことないのは僕だけかな**4
目の前にあった、もしくはアタマの中に描いていた物語はすべて「限られた世界の中の話」だったのだ。なんと残酷な話だろう。
それまでクスリが効いていて、ハッピーな世界を浮遊していたのに、プチッと切れて引き戻されたのは、ありふれていて見たくもない現実。その壁の中に僕はいる(閉じ籠もっている)。
自分のまわりに壁があることを、僕は知っている。そして、その外に出たことがないこともわかっている。それを「僕だけかな」と意識しているということは、それが正常ではない(だろう)ことを、それが特別なこと(変わっていること)を、じゅうぶん承知している。
けれど僕は繰り返す。
カプセルを口にして、飛んでるみたいな気分になることを。
誰が僕を助けるのだろう。
キミには祈りも届かない。
救いようもない‥‥と書くと語弊があるが、あまりにも哀しい唄だ。
追記;
ちなみにアルバムは、これ。
- アーティスト: capsule,yasutaka nakata
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- 発売日: 2005/09/21
- メディア: CD
- 購入: 9人 クリック: 146回
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You Tubeの動画を紹介しましたが、ニコニコ動画なら歌詞も読めます(笑)。
たとえば、こことか。(http://www.nicovideo.jp/watch/sm20629)